「四つの署名」(ドイル)

読み手を唸らせる数多くの仕掛け、なんとも贅沢な娯楽作品

「四つの署名」(ドイル/日暮雅通訳)
 光文社文庫

「四つの署名」光文社文庫

ホームズ、ワトスン、
メアリー、サディアスの四人が
バーソロミューの
屋敷を訪れたとき、
彼は毒矢を受けて
すでに死んでいた。
彼が屋根裏に隠していた
財宝は消え失せ、
死体の傍らには義足の足跡と
「四つの署名」が残されていた…。

「緋色の研究」に続く、
コナン・ドイル
シャーロック・ホームズの第二作です。
第一作同様、
発表当初は売れなかったという本作品、
現在では押しも押されもせぬ
名作としての評価が定着しています。

【主要登場人物】
「わたし」(ジョン・H・ワトスン)
…語り手。医師(元軍医)。
 ホームズと同居し、
 彼の仕事に同行する。
シャーロック・ホームズ
…探偵コンサルタント。
 ワトスンと共同生活を送る。
メアリー・モースタン
…依頼人。行方不明の父親に関わる
 謎を打ち明ける。
モースタン大尉
…メアリーの父親。
 十年前に行方不明となる。
ショルトー少佐
…モースタン大尉の友人。
サディアス・ショルトー
…ショルトー少佐の次男。
バーソロミュー・ショルトー
…ショルトー少佐の長男。
 屋敷で殺害される。
モーディカイ・スミス
…蒸気船オーロラ号の所有者。
 息子とともに行方不明となる。
ジョナサン・スモール
マホメット・シン
アブドゥラー・カーン
ドスト・アクバル
…「署名」に名のあった4人。
ウィギンズ
…宿無し子たちの集団・
 ベイカー街不正規隊のリーダー格。
アセルニー・ジョーンズ
…スコットランド・ヤードの刑事。

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本作品の味わいどころ①
明確化された名探偵と助手の役割

第一作では、
ホームズと出会ったばかりの
ワトスン目線で書かれていたため、
ホームズは異端の存在として
描出されています。
ところが第二作では、その後、
同居生活を続け、お互いの性格を
十分に理解し合ったものとして
物語が紡がれていきます。
ここでは、
名探偵ホームズをサポートする
「助手」としての役割を果たす
「わたし」=ワトソンが
描かれているのです。

以降、このコンビで
数々の事件が解決されていくのですが、
「名探偵&助手」のこの形がミステリの
スタンダードとなっていきます。
ただし、
他の作家の多くのミステリ作品が
三人称で書かれているのに対し、
ワトスンの一人称で記述されているのが
ホームズシリーズの特徴でしょう。
小林少年の告白体で書かれた
明智探偵ものは存在せず、
等々力警部目線で描かれた
金田一シリーズもまた
書かれていないのです。

本作品の味わいどころ②
事件の奥底にある暗く根深い因縁

第一作同様、
事件の奥深くにある因縁を、
本作品もまた二部構成で
描き尽くしています
(ただし第一部・第二部の表記はなく、
内容上、
第一章から第十一章までが前段、
第十二章が後段となっています)。
第十二章では、
犯人の語る半生が衝撃的です。
悪人なりの論理で、
筋を通しているのですから。

本作品の味わいどころ③
読み手を唸らせる数多くの仕掛け

本作品では、
殺人事件はバーソロミュー・ショルトー
殺しの一件だけです。
その「殺人事件」を縦糸とし、そこに
「隠された財宝」を横糸として絡ませ、
それに付随させてさまざまな
エンターテインメント的要素を
盛り込んでいるのです。
殺人現場は「密室」。
そこに残された
怪しく危険な凶器「毒の吹き矢」。
そして謎めいた「義足の足跡」と
「四つのしるし」。
ホームズの優秀さの引き立て役となる
「しくじり刑事」的存在の
アセルニー・ジョーンズ。
それに対して迅速に活動する
浮浪児集団「ベイカー街不正規隊」
(もしかして少年探偵団の原型か?)、
現代の警察権顔負けの
「捜査犬」トービー。
高速蒸気船どうしによる「追跡劇」
(カーチェイスならぬシーチェイス!)。
そしてなんといっても
依頼人メアリーとワトソンの
「恋愛模様」。
第一作と比較し、なんとも贅沢な
娯楽作品に仕上がっているのです。

やはりホームズは面白い。
世界中で愛される理由がわかります。
現代のミステリを
読み慣れた方にとっては
もはや「古典」の部類なのでしょうが、
古典には古典ならではの
味わいがあるのです。
ぜひご賞味あれ。

〔翻訳について〕
「古典」である分、
翻訳本もいくつかあります。
今回取り上げた日暮訳は、
現代的であり、
読みやすい訳文となっています。

同じく21世紀に入ってからの新訳では
駒月雅子訳(角川文庫)、
深町眞理子訳(創元推理文庫)が
あります。

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その一方で、古めかしい文体ながら、
根強い人気を誇っているのが
新潮文庫の延原兼訳でしょう。

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海外作品は、
訳文によって味わいが異なります。
私は日暮訳が好きです。

(2023.3.31)

Eric Neil VázquezによるPixabayからの画像

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